その生徒はほとんど自分のことを話さない女子だったのですが、入塾してから数カ月経ち、少しずつ話してくれるようになりました。いわく「あまり親から褒められたことがない」とのこと。友だちと出かけるのでさえいい顔をされず、これまでもそうだったし、このままだと学校を卒業するとまた友だちとも疎遠になってしまうんだろうなあと寂しそうに言うのです。
彼女が控えめな性格だということもありますが、常に親の顔色をうかがい、親の望むことを最優先に行動しているようです。
私としては、まずは話を聞き、吐き出させることに専念しました。「しんどいのは自分だけでいい」など、自分をないがしろにしているような発言が出たら口をはさみ、他人を思う気持ちは大切だが、同じくらい自分の気持ちも考えられるように、「本当はどうしたいの?」と本心を見つけるきっかけになるような声掛けをしていきました。
そしてきっと、誰よりも親から褒められたり、ねぎらわれたりしたいんだろうなあという雰囲気が、彼女の言葉の端々から感じられたのです。
その後、ある時「あれから家で一人で考えてみた」と話しかけてきました。この塾で出会って仲良くなった友だちと疎遠になることが、やはり残念でならないそうです。「まずは友だちに自分の家族のことを話してみたい」。そして「友だちと2人きりでは難しいから一緒に話して」と言うのです。自分の思いを見つめ、見つけ、自分から行動したいと伝え、頼ってくれたその変化がとてもうれしかったです。
きっといつか親に対しても自分の思いを伝えることができるのでは、と思っています。私のような第三者だから話せることがきっとあるでしょう。今回のやり取りを通し、生徒が抱いている勉強以外の悩みや不安にも寄り添える存在でありたいと改めて思いました。